JIA四国支部と木造建築 ー非住宅編ー
「ろうそく夜」について書きました。(P4〜7)
ー掲載文転記ー
■ろうそく夜(よ)
おそらく日本で最もミニマムなお寺カフェではないだろうか?(moon at.調べ)
事の起こりは、鳴門市大麻町大谷にある東林院(種蒔大師)というお寺の副住職からの電話だった。
お話を聞くと、東林院境内に休憩場所としての東屋があり、そこをご近所さんや参拝者が気軽に休めるカフェ(雰囲気的には茶屋っぽいが確かにカフェとおっしゃった)にリノベーションしたいということだった。
そして、お店を運営するのは以前から自宅でリビングを開放して「ろうそく夜(よ)」という人気の自宅カフェを営んでいたトモちゃんである。
彼女がこれまで培ってきたコンテンツをお寺に持ち込み、新しい形としてお寺カフェを展開するのだ。
トモちゃんというソフトと、ハードとしての苔むした東屋をどういう風に味付けるか?で悩むこととなる。
ろうそく夜が佇むシチュエーションは、お寺という永い時間の中で育まれた「場所」そのものである。
なので「今ある風景をできるだけ変えずに計画しよう」というところからスタートした。
石場建ての基礎と構造体はありのまま生かし、経年の地盤不陸もそのままで…。窓をつけた窓台も地盤による傾きなりに調整して取り付けるといった、風情とすれば「三匹の子豚」の2番目の子豚の建てた木の枝の家のような感じ?
それでも環境全体が持つ見えない力に守られているように安定し、静かに風景に溶け込む茶屋(カフェ)になったと思う。
■木造建築への思い
日本人であるならば誰しも「木」に対する愛着をDNAレベルで持っていると思う。
住宅など一般的な規模、予算であれば木構造を選択するのも建築家の職能意識として当たり前にある。
しかし、経済性や様々な要因から選ばれる木構造と「木」に対する想い、必然性から創られる木造建築はリンクしながらも似て非なるものだろう。
先日阿南市の若者が飛び込みで僕の事務所を訪ねてくれた。
彼は大学で建築の勉強をしたのち実家の建材店を手伝いその後考えるところがあって山師(山林伐採の)として独立をしたばかりだという。
その道に入ってから気づいたり、知らなかったことも数多くあったらしく、これからの自分の人生において少しの希望と多くの絶望?を感じていると言っていた。
山の中で自然と共に働く気持ちよさや先人の財産を社会に活かせる喜び、一方業界で常に課題とされる木の川上から川下への流通の問題や労働に対する賃金対価のバランスが取れていないこと等々…「様々の事柄を良い方向に導く方法はないでしょうか?」という悩み相談含めたくさんの話をした。
彼と話をしている中で僕自身考えさせられることが多々あった。
昨今地産地消という考え方はとても重要なこととされている。地元の素材に対する愛着や、運送距離を縮めてCO2の排出を抑えること、カーボンニュートラルによる地球環境負担の軽減への期待など。
そういったことは当たり前に知識としてわかっていたことだけど、それ以上に地元で働く人たちの人生にも関わることなのだなぁということを強く感じた。
どこかで木は木ではないか、と思うところが無きにしも非ずではあったが表題の「木造建築への思い」というのは、地産地消をもって阿波っ子の心意気を示すことではないだろうか?と初対面の若者との出会いの中で強く思った今日この頃です。
伊月善彦
ろうそく夜(よ)
所在地 : 徳島県鳴門市大麻町大谷 東林院内
設計・監理 : 一級建築士事務所 moon at.
施工 : マツシタ店装
写真 : 生津勝隆 [NAMAZU]